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札幌地方裁判所岩見沢支部 昭和57年(わ)141号 決定 1982年11月04日

被告人 K・D(昭三八・一一・一六生)

主文

本件を札幌家庭裁判所岩見沢支部に移送する。

理由

被告人は、

第一  自動車運転の業務に従事しているものであるが、昭和五七年五月六日午後一〇時三〇分ころ、普通乗用自動車を運転し、岩見沢市○○町○×丁目先の交通整理の行われている交差点を○△町方面から○○通方面に向かい右折進行するにあたり、交差点の中心の直近を徐行し、前方を注視して右折先に設置された横断歩道の横断者の有無及び動静を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、時速約五〇キロメートルの高速で、ハンドル操作に気を奪われ前方注視を欠いたまま右折進行した過失により、折から青色信号に従い、右横断歩道を右から左に向かい自転車に乗車して進行して来たA(当時七一歳)を右前方約七、八メートルに認めて急制動の措置をとつたが間に合わず、右自転車左側部に自車右前部を衝突させて、同人を自車のボンネット上にはね上げて路上に転落させ、よつて同人に加療約三一日間を要する左腓骨骨折、頭部打撲の傷害を負わせた。

第二  前記日時場所において、前記のとおりAに傷害を負わせる交通事故を発生させたのに、直ちに車両の運転を停止して同人の救護等法律の定める必要な措置を講ぜず、かつ、その事故発生の日時、場所等法律の定める事項を直ちにもよりの警察署の警察官に報告しなかつた

ものであつて、以上の事実は被告人の当公判廷における供述その他当公判廷において取調べた関係各証拠上明らかに認めることができ、これを法律に照らすと、右第一の事実は刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に、第二の事実中救護義務違反の点は道路交通法一一七条、七二条一項前段に、報告義務違反の点は同法一一九条一項一〇号、七二条一項後段に各該当する。

そこで被告人の処遇について検討するに、一件記録によれば、被告人の前記第一の犯行は交差点を高速で右折進行するという無謀運転に起因するもので、過失の内容、結果とも重大であり、また、前記第二の犯行については事故後停車すらせず逃走するという悪質なところも認められ、これらに加え、被告人は通行区分違反など四回の反則行為と速度違反一回(これについては、家庭裁判所において講習のうえ不処分決定を受けている。)の違反歴を有するうえ、所有車両(本件普通乗用車)のハンドル、運転席などに改造を加え、週末にはこれを運転し友人らと車を連ねて市街地を走り回るなどしていたもので、その交通非行性には軽視できないものがあることなどを考えると、本件については厳しく刑責を問い、これによつて被告人の視範意識の覚せいを促すのが相当であると考えられなくもない。

しかしながら、前記第二の犯行については、被告人は恐怖感に駆られて現場から逃走したものの、その途中被害者の安否を案じるとともに自己の犯行はいずれ発覚するものと考えて、本件事故の約五分後に現場に引き返し、同所において被害者に謝罪するとともに、その後臨場した警察官に自首したこと、被害者に対しては慰藉の措置を講じ、被害者は被告人を宥恕し、被告人に対する寛大処分を望んでいること、被告人は、現在一八歳の可塑性に富む少年であり、本件犯行の一か月余り前に高校を卒業してガソリンスタンドのスタンドマンとして就職したばかりで、交通非行の点を除けば資質、生活態度などの面で特に問題点は見当らないこと、本件後は、所有車両の前記改造部分も修復し、また、本件により受けた免許停止処分の期間は既に経過しているが、友人らと遊びで自動車を乗り回すなどの行為はやめるなど、内省を深めていることがうかがえること、本件を契機に、保護者や勤務先の上司らの指導、監督も強化されることが期待できること、保護処分歴はないことなどの事情を考慮すれば、被告人に対しては、刑事処分をもつて臨むよりは、むしろ、専門的指導援護を加えて交通非行性の改善を図るため、保護処分に付するのが少年法の趣旨、目的に適うものと考える。

よつて、本件については、少年法五五条により札幌家庭裁判所岩見沢支部に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 竹中省吾)

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